旅で出会った不思議な人々
旅に出ると、不思議な人たちに出会うことがよくある。
思い出すままにいくつか挙げていこうと思う。
1.中国の洛陽から西安へ夜行バスに乗っていた時のこと。車掌が走行中に突然ドアを開け、身を乗り出した。何をするのかと思って見ていると、なんと放尿を始めた。二度と見られないであろう凄い光景であった。私用でバスを止めなかったのだから、ある意味偉い。
2.中国の張掖から嘉峪関に向かう長距離バスの車内で、それは起きた。家族らしき数人が運賃を払っておらず、車掌が払えと言っても無視。しまいには逆切れする始末。あっけにとられて見ていると、「払うまで出発しない」と言って、車掌がバスを止めてしまったのである。ここから車掌と無賃乗車客との睨み合いが続いた。短かったのか、長かったのか、今では覚えていないが、しぶしぶ金を払ってバスは無事に再出発したのである。全く意味が分からない。絶対に分からない。永遠に分からない。
3.パキスタンのラホールからインド国境行きのバスに乗っていた時、隣に座っていた爺さんが手のひらサイズの紙袋に入ったお菓子を食べ始め、無言で俺の前に差し出した。明らかに「お前も食べろ」ということなのだが、こちらを見ることなく真っ直ぐ前を向いている。言葉が分からなくても、大抵は現地語で何か言葉を発するのだが。シュクラン(ありがとう)と言って2~3個つまんで食べると、爺さんがまた食べる。そして、また無言で前を向いたまま差し出す。俺食べる、爺さん食べる、俺食べる。このやりとりを繰り返してお菓子は無くなった。何事も無かったかのように2人とも無言で前を向いたまま。そして、爺さんは最後までこちらを向かないまま無言で降りて行った。不思議な時間だった。でも、何故か心地よかった。外務省から国外退避勧告が出ていなければ、出会わなかった筈の人である。
4.インドには乞食がたくさんいる。家庭を持っている乞食も珍しくない。手足の無い乞食もいっぱいだ。子供時代に親に切断されるらしい。バスや列車に乗っていると、両足の無い乞食が手にサンダルを嵌めてピョコンピョコンと跳ねてくる。すぐに慣れてしまう。コルカタに滞在していた時、宿の近くに片腕の無い乞食が常駐していた。アクティブなインド乞食の中では逆に目に留まる。片腕が無いだけなら特に気に掛けないのだが、彼は常にうつ伏せで、腕が無い方の肩をピクピク動かし続けるのだ。彼の前を通る度にピクピクしているか、つい確認してしまう。毎日毎日ピクピクしている。やっぱり、インドは凄い。